【講演録】グローバル調査結果から紐解く社員エンゲージメントの最新動向

コーン・フェリーでは2023年12月13日に「23年グローバル調査結果から紐解く社員エンゲージメントの最新動向」と題するセミナーを実施しました(動画はこちら)。その講演録をご覧ください。

 

コーン・フェリー クライアント リレーションシップ マネジャー 白井 基記

 

■「社員エンゲージメント」と「社員を活かす環境」の最新データ

本セミナーの目的は、コーン・フェリーが保有する最新のグローバルデータから日本の社員エンゲージメント水準の現状を俯瞰的に理解していただき、自社での改善活動に役立つヒントを提供することになる。

コーン・フェリーでは社員エンゲージメントを二つの要素に分けている。一つが、会社に対する長期的なロイヤリティや貢献意識が醸成されているか、与えられた以上の仕事に取り組もうとするかという社員側の要素「社員エンゲージメント(Engagement)」。もう一つが、組織として適材適所を実現させているか、働きやすい環境を整備できているかという組織側の要素「社員を活かす環境(Enablement)」だ。

コーン・フェリーがグローバルで集計した最新のデータ(2022年)では、社員エンゲージメント・社員を活かす環境の両方において世界平均・高業績企業平均ともに上昇トレンドが継続している。ところが、日本平均はほぼ前年並みであり、世界とのギャップは縮まっていないことが分かった。

社員エンゲージメント・社員を活かす環境を算出する設問のうち原因系のドライバーを抽出し、アジア太平洋地域について2019年と比較して改善もしくは悪化した項目を出してみた。着実に改善していることが見て取れるものの、絶対値で見ると日本は相変わらずアジアの中でも低い。

■エンゲージメントスコア向上に向けた視点

どうすれば日本国内の企業のエンゲージメントスコアを向上させられるのか。エンゲージメントスコアの日本平均、高業績平均、世界平均との比較からアプローチすることが可能だ。図表を見て分かるのは、原因系カテゴリのうち「戦略・方向性」「業務プロセス・組織体制」「リソース」が、日本が世界平均と比べた時に特にギャップが大きいということだ。逆に言えば、この3項目を世界水準まで持っていくことができれば差を埋めることができる。

まず、「戦略・目標の理解」に注目する。戦略・方向性のカテゴリは、「担当業務と戦略・目標の関係が理解できているか」「戦略・目標の適性感、納得感があるか」「戦略・目標の理解」「2-3年の見通し(中長期的に会社の見通しは明るいか)」の4つの設問から構成されている。管理職、非管理職(一般職)のデータを見ると、日本の管理職は世界平均・高業績水準とあまり変わらないのに対し、非管理職になるとかなりのギャップが出ている。経営戦略が現場まで十分に共有されているのか検討してみることがヒントになりそうだ。

「業務プロセス・組織体制」は3つの設問(「段取り良い仕事」「成果を出せる組織体制」「革新的な仕事の進め方」)によって構成されている。もっともギャップが大きいのは、「革新的な仕事の進め方」で、日本企業の平均値は世界の半分ほどの肯定回答率にとどまっている。好業績企業が行っている革新的な仕事の進め方には例えば以下のような共通項がある。自社のありたい姿と業務プロセスが紐づけできていること。仕組みと体制が整合していること。業務の棚卸を行うことで、プロフェッショナル人材が時間を費やすべきでない非付加価値業務や定型業務を特定して、集約、またはアウトソース化を積極的に推進すること、などだ。こういった取り組みを他の部門に言われてやるのではなく、組織長や担当者がその必要性・効用を理解して、定期的、自主的に部門内で実施しているのだ。

最後は「要員の確保」。高い肯定回答率につなげている企業は、直接的なアプローチと間接的なアプローチをうまく使い分けている。前者は、現場の声を聞きつつもしっかりと機能や事業ごとにこの取り組みを行い、その基準に照らし合わせて客観的な基準に満たしていないと、速やかに組織内外から要件を満たす人を充足している。後者は、ツールや設備に対する積極投資を行なうことで現場の負担感を軽減することを効果的に行っている。例えば某企業では、生産現場を中心にリソース不足を解消するため、30億円の投資をし、それを組織内外に公表することで現場社員も期待感を得ることができる。またリソースが不足している中で、何に時間や物を集約するかということも大事だ。非付加価値業務であればアウトソース、外部連携も視野にいれながら、進めているケースが多い。

■世界レベルへの向上に向けた視点:日本企業のキードライバー

社員エンゲージメントや社員を活かす環境を改善するための色々な要素の中で、特に影響度の高いものをキードライバーと言う。注目すべきは、コロナ前とコロナ後で、エンゲージメントのキードライバーの1位(経営陣の信頼)、2位(社員への配慮)、3位(キャリア上の目標達成見込み)、4位(成長する機会)、5位(成果を出せる組織体制)に全く変化がなかったことだ。つまり、コロナ禍を経て私たちの働き方や社員の価値観は大きく変わったが、社員エンゲージメントを向上させるエッセンスは変わっていないということだ。恐らく今後もしばらくはこれらのキードライバーが大きく変わることはないだろう。これらの企業として注力して取り組むことが引き続きエンゲージメント向上への近道だと言える。

次に注目すべきは、社員は良くも悪くも組織風土に染まっていくということである。日本のエンゲージメントの水準は平均をとると世界の中で一番低い状態ではあるが、個社別に見ると、企業のサイズにかかわらず、世界レベル以上の会社というのは実は多数ある。それは、経営陣、現場がエンゲージメントと真摯に向き合い、どうやったらこのエンゲージメントが上がるのかということに時間や投資をしているからだ。実は入社後1年未満の社員のエンゲージメントレベルは会社毎にそんなに差がないということである。入社直後はやる気に満ちている社員が多い中、それが、勤続年数が経過するにつれ、良くも悪くもその組織風土に染まっていく。だからこそ、組織としてのエンゲージメントや、エンゲージメントを規定する組織風土をいかにデザインしていくか、向上させていくか、という観点が重要になってくるのだ。今後、その差がますます広がっていくことが予想される。

組織風土の重要性について、企業は改めて重要視していくことが求められている。

 

■Q&Aセッション

Q1:エンゲージメントのスコアに寄与する項目としてリーダーシップ(経営陣)があったが、現場のマネジャーはあまり寄与しないということか?

A:エンゲージメントの高低を左右する要素としては経営陣と現場マネジャーは両輪になっている。エンゲージメント調査のフレームワークの中の原因指標の項目「戦略・方向性」を発信するのは、経営陣だが、現場の末端まで浸透させる上で現場マネジャーが与える影響は大きい。ここをしっかりかみ砕いて、自分たちの機能や、組織で全社戦略とはどういうことを意味するのかを伝えられないと、エンゲージメントスコアは上がらない。あるいは個人の尊重というところも、会社の制度としての部分と、実際に日々相対するのは現場のマネジャーだ。社員一人一人を尊重し、コミュニケーションをとっているかで、こういったスコアは同じ制度の会社の部門やチームによっても高低が変わってくる。

Q2:日本企業の中で、外国人社員のほうが日本人社員よりエンゲージメントスコアが高いという傾向が多いのではないか。それは、国民性の影響が大きいからか?

A:Yes でもNoでもある。Yesと言える部分は国民性の要素。エンゲージメント調査に限らず、一般的に日本よりも東南アジアやラテン系の国の方が肯定的回答は集まりやすい。ただ、必ずしも外国人比率が高くない日本企業でも、社員エンゲージメントや社員を活かす環境が世界水準、場合によっては高業績企業水準にまで上げている会社もある。キードライバーを見ていくと、影響度が高い項目に対する取り組みをすればそれらの数字も上がることも分かっているため、すべてを国民性に理由を求めることはできないと考える。

Q3:社員数1万人以上の日本企業で世界レベルを超えるエンゲージメントスコアの企業は少ないが、何か理由があるのか?

A:社員数1万人以下の企業が世界平均を明らかに超えていることが多いのは確かだが、1万人以上の企業でも高いところはある。大企業はしっかりと考え方を浸透させるのにどうしても時間を要するという要素はあり、中堅や小規模の企業の方がスピーディーだというのはある。

Q4:エンゲージメント指標を開示する会社が多くなっているが、投資家視点で、世界的にみてどの程度注目されているのか? またエンゲージメント指標は各企業それぞれの基準で調査しているが、質問項目等について世界的に標準となるものはあるか?

A:エンゲージメントスコアは人的資本開示という点で日本のマーケットから求められているし、世界でもエンゲージメント水準は投資家が参考にする公開すべき指標の一つになっている。その際に各社がそれぞれの基準で調査をしているというのは確かだが、エンゲージメントという同じ要素を見ているので大きな差はないと考える。むしろ重要なのは、エンゲージメントをどういった水準にまで伸ばすのか、どういった要素項目をその会社では重視しているのか、そのストーリーがその会社の事業戦略と整合しているのかということ。エンゲージメントスコアを開示するだけではなく、その背景にあるストーリーを資料上から読み取れるようにすることも重要だ。

関連記事